前回の記事では、小説の文末に同じ文字(〇〇た、〇〇る)が並ぶことを防ぐコツを紹介しました。ただ、そのときに使った例文は場面が全てバラバラだったため、既にある文章をどの型に当てはめて修正すればいいかわかりにくかったかもしれません。
ここでは、1つのシーン(場面)を固定し、それを5つの型で書き換えた場合にどうなるのか、文末を言い換える以外のメリットは何なのかを、例文を交えて紹介します。
前回の記事をまだ読んでいない方は、先に以下の記事をご覧ください。
あわせて読みたい小説で同じ文末(る・た)が連続する原因と対策|言い換えの判断基準も解説
監修

湯呑屋。
Webライター・アマチュア物書き。
Solispia Winter Short-stories 大賞、Solispiaリレー小説祭 最優秀賞、第一回Solispia文学賞 最終選考、第210回 超・妄想コンテスト 優秀作品選出ほか、受賞・入選多数。
小説の文末を5つの型で書き換えた例文

前回の記事で紹介した、同じ文末の連続を防ぐ描写の型は次の5つです。
| 型の名前 | 描写の順 |
|---|---|
| 心の声を重ねてから出来事で場面を動かす | 心の声(〜だろう)→ 心の声(〜ない)→ 心の声(〜だ)→ 出来事(た) |
| 出来事のあとに心の声と目に映る様子を置く | 出来事(た)→ 心の声(〜だろうか)→ 目に映る様子(〜ている)→ 出来事(た) |
| 説明から入り出来事のあとに習慣を添える | 説明(だ)→ 出来事(た)→ 習慣(〜ている)→ 出来事(た) |
| 心の声の段落に「た」を1回だけ入れる | 心の声(る)→ 心の声(〜だ)→ 過去の体験(た)→ 心の声(〜だろう)→ 心の声(〜ない) |
| 出来事の間に推し量りと動作を挟む | 出来事(た)→ 推し量り(〜だろう)→ 動作(る)→ 出来事(た) |
今回は、「〇〇た」ばかりで書かれた1つの固定シーンを、この5つの型で言い換えた例文を紹介します。言い換えで発生する別のメリットもあわせて紹介するので、自身の小説を修正する際の参考としてお使いください。
固定シーンは以下のとおりです。
朝、教室に入ると千夏がもう席にいた。始業まではまだ二十分あって、教室には数人しか来ていなかった。千夏は毎朝、自分の席で髪を結び直していた。その日も髪ゴムを口にくわえて、両手で髪をまとめていた。前にケンカしたときは向こうから話しかけてくれた。一度だけ目が合ったものの、千夏はすぐ窓のほうを向いた。謝るなら早いほうがいいと思い、私は鞄を机に置いて千夏の席まで行った。「おはよう」と声をかけると、千夏は髪ゴムをくわえたまま、くぐもった声で「おはよう」と返した。
これがどう変化するのか、実際に確認してみましょう。
心の声を重ねてから出来事で場面を動かす型の例文
朝、教室に入ると、千夏はもう窓ぎわの席で髪ゴムを口にくわえ、両手で髪をまとめていた。一瞬だけ目が合ったものの、千夏はすぐ窓のほうを向いてしまう。あれは、まだ私と口をききたくないからだろう。前にケンカしたときは向こうから話しかけてくれたけれど、今度もそうしてくれるとは限らない。どうせ謝るなら、教室にまだ数人しかいない今のうちだ。私は鞄を机に置いて千夏の席まで行き、「おはよう」と声をかけた。千夏は髪ゴムをくわえたまま、くぐもった声で「おはよう」と返した。
この型のメリットは、行動に気持ちを乗せられる点です。固定の方では「謝るなら早いほうがいいと思い」だけで千夏の席へ向かいましたが、この例文では声をかける前に『口をききたくないから目をそらされた』『教室にはまだ数人しかいないから』などの心の声を置くことで、行動の理由がわかりやすくなっています。
この型が使いやすいのは、以下のような場面です。
- 謝る、話しかける、断るなど、人物が一歩踏み出す前にためらう場面
- 相手の態度を受けて、次にどうするかを決める場面
- 時間や場所の説明を、人物が動く理由として見せたい場面
出来事のあとに心の声と目に映る様子を置く型の例文
朝、教室に入ると、千夏はもう自分の席に座っていた。前にケンカしたときみたいに、今日も向こうから話しかけてくれるだろうか。千夏は髪ゴムを口にくわえて、両手で髪をまとめている。じっと見ていると一度だけ目が合ったが、千夏はすぐ窓のほうへ顔を向けてしまった。私は鞄を置いて千夏の席まで行き「おはよう」と声をかける。観念したのか、髪ゴムをくわえたまま千夏は「おはよう」と返してきた。
この型のメリットは、主人公と同じ速さで物事を見られる点です。前は先に声をかけてくれたことを「心の声」に変えて先に置いたことで、読者も「声をかけてくれるかな→目をそらされた!」と主人公のショックを追体験できます。
この型が使いやすいのは、次のような場面です。
- 相手の返事や反応を待っている場面
- 期待や不安が、当たるか外れるかを見せたい場面
- 相手の様子を、人物の目を通して見せたい場面
説明から入り出来事のあとに習慣を添える型の例文
始業の二十分前は、教室にまだ数人しかいないので静かだ。扉を開けると、千夏はもう自分の席にいた。彼女は毎朝、登校後のこの時間に髪を結び直しており、私が声をかけるとにこやかに挨拶を返してくれる。今日は、私と目が合った瞬間にそっぽを向かれた。これは口をきいてくれないかもな。そう思いながら千夏の席に行き「おはよう」と声をかけると、千夏は髪ゴムをくわえたまま、くぐもった声で「おはよう」と言った。
この型のメリットは、いつもとは違う動きを強調できる点です。先に習慣として千夏の行動や二人のやりとりを示すことで、千夏が目をそらすという変化が強調されます。まだ感情を書いていない段階でも、いつもとは何かが違うと伝えられるのでおすすめです。
この型が使いやすいのは、次のような場面です。
- いつもと違う出来事を目立たせたい場面
- 人物の習慣や、場所の決まりを紹介したい場面
- 気持ちを書かずに、違和感だけを伝えたい場面
心の声の段落に「た」を1回だけ入れる型の例文
教室に入ると、窓ぎわの席で千夏が髪ゴムを口にくわえて髪をまとめていた。目が合えば挨拶してくれるかなと思ったものの、千夏はこちらを見てすぐに目をそらしてしまった。その横顔にどう声をかければいいかわからなくなる。謝るなら早いほうがいいと頭で理解しているつもりだ。前のケンカのときは向こうから話しかけてくれた。でも今日はそれも期待できないだろう。なら、こっちから行くしかない。鞄を机に置いてから「おはよう!」と声をかけにいくと、千夏は髪ゴムをくわえたままで「おはよう」と返してくれた。
この型のメリットは、動き出す前の迷いをじっくりと見せられることです。本来は心の声を連ねると「る系」が並ぶことが多いですが、間で1つだけ心の声を「た系」にすることで、違和感なく心の声を5連続で置けるのです。
この型が使いやすいのは、次のような場面です。
- 大事な行動の直前で、人物が迷う場面
- 昔の出来事を思い出しながら、今どうするかを考える場面
- 場面の区切りで、人物の気持ちをまとめて見せたい場面
出来事の間に推し量りと動作を挟む型の例文
教室に入ると、ちょうど窓ぎわの席の千夏が髪をまとめているところだった。一瞬だけ目が合ったものの、千夏はすぐに顔を窓のほうにそらした。今朝は、私のほうから何か言うのを待っているのだろう。鞄を置いて千夏の席まで行き「おはよう」と声をかける。千夏は髪ゴムを口にくわえたまま、くぐもった声で「おはよう」と返してくれた。
この型のメリットは、場面を止めることなく行動の理由を添えられる点です。「私のほうから何か言うのを待っているのだろう」と推し量る1文を入れることで、行動描写だけでさらっと進みそうな箇所に奥行きを持たせられます。
この型が使いやすいのは、次のような場面です。
- 会話や動作が続く中で、理由を一言だけ添えたい場面
- 相手の反応を受けて、すぐに動く場面
まとめ|見せたいものに合う型で文末を書き換えよう

同じ場面でも、違う型を使うことで見せられるものは大きく変わります。また、型を使うと自然に文末表現の3連続も防げるので一石二鳥です。ぜひこの機会に描写の型をインプットし、文末表現で悩んでしまう時間を削減しながら、描写力アップも目指しましょう。



