小説を書いていて、文末に「た」ばかり続いたり「る」に替えたら意味が変わってしまった経験はありませんか?

リズムを整えるために1か所だけ文末を替えても、かえって意味が通らなくなったり、流れが詰まってしまうことが多いです。そんなときは単純な文末の言い換えではなく、段落を文単位で分解し、描写する内容の順番を整理してみましょう。それだけでも文末の偏りを防げます。

この記事では、文末で発生しやすいミス、「た」と「る」の種類と意味、文末の偏りを防ぐための描写の順序について解説します。

推敲の際に何度も文末表現を迷ってしまう方は、ぜひ参考にしてください。

監修

湯呑屋。

湯呑屋。

Webライター・アマチュア物書き。

Solispia Winter Short-stories 大賞、Solispiaリレー小説祭 最優秀賞、第一回Solispia文学賞 最終選考、第210回 超・妄想コンテスト 優秀作品選出ほか、受賞・入選多数。

本記事で紹介する内容は、文末の偏りを防ぐための1つの考え方です。特定の書き方を正解として示すものではありません。ご自身に合うかどうかを検証したうえで、取り入れるかを判断してください。

文末が単調になるときに陥りがちなミス

文末が単調になる段落には、共通点が多いとされています。まずは自分がよく陥る文末表現のミスはどれか確認しましょう。

行動を並べると同じ文末が続く

人物の行動を事細かに書こうとすると、どの文も「何をしたか」の列挙になるため、文末に「た」が並びやすくなります。

「た」を列挙した版:目覚まし時計を止めて、俺は布団から飛び起きた。急いで洗面所で顔を洗ったあと、テーブルの食パンを一枚くわえて鞄をつかんだ。靴のかかとを踏んだまま、玄関を飛び出した。

「る」に替えた版:目覚まし時計を止めて、俺は布団から飛び起きる。急いで洗面所で顔を洗ったあと、テーブルの食パンを一枚くわえて鞄をつかむ。靴のかかとを踏んだまま、玄関を飛び出す。

これらは文末の形が替わっただけで、どの文も「何をしたか」の報告のままです。極端な例ですが、行動だけを描写するとこのミスを引き起こしやすくなります。

回想の文末が「た」に偏る

回想の場面では、出来事に加えて当時の様子や習慣まで書くことが多くなります。その結果、段落の中で「〜た」「〜ていた」「〜だった」が重なりやすくなります。

小学生のころ、夏休みは祖母の家で過ごした。祖母の家は川のそばにあった。祖母は毎朝、縁側で豆をむいていた。私はその横で宿題をし、夕方には二人で川まで歩いた。

この例では、川のそばにあった家も毎朝の豆むきも「当時はこうだった」という扱いで書かれています。そのためどの文も過去の報告になり、出来事、様子、習慣の違いが文末から読み取れなくなっています。

1か所だけ「る」に替えて意味や流れが変わってしまう

リズムを整えようとして「た」が続く段落の1か所だけを「る」に替えると、文の意味が変わったり、場面の流れが切れることがあります。

「た」が続く版:放課後、友人は駅前の書店に寄った。新刊の棚の前で一冊の本を手に取った。少し迷ってからレジへ向かった。店を出ると雨が降り出していた。

一部を替えた版:放課後、友人は駅前の書店に寄った。新刊の棚の前で一冊の本を手に取った。少し迷ってからレジへ向かう。店を出ると雨が降り出していた。

「向かう」は「これから向かう」という意味にも読めてしまいます。「レジへ向かう」のあとに1つ描写がないと急に店の外に出たように読めてしまい、「向かった」のときよりも唐突感が強くなってしまいます。

ここまでに紹介した例はどれも極端に書いていますが、たとえ意味が変わらない位置で「た」を「る」に変換できても、行動列挙や回想中では同じ文末に偏りやすい、意味の変化が起こりやすいという問題は根本的には解決しません。

次の章では、そもそも「た」と「る」が表す意味について詳しく解説します。

文末の「た」と「る」が表す意味

単純に「た」は過去を表し「る」は現在を表していると覚えている方もいるかもしれません。ところが実際には、過去の出来事を書いた段落にも「る」で終わる文が混ざっています。この現象の理屈が理解できれば、文末を自由に操れるようになるでしょう。

本記事での「る」は、「歩く」「ある」「暗い」「静かだ」「〜ない」「〜ている」のように、「た」が付かない形すべてを指します。

一般的な文の中での意味

一般的な文の中で「た」と「る」が表すのは、主に以下のような意味です。

意味例文
「た」・過去/完了きのう宿題を終えた/もう宿題を終えた
「た」・過去(状態)部屋は暗かった
「た」・発見/想起ああ、こんなところにあった/そうだ、明日は休みだった
「る」・現在兄は部屋にいる
「る」・未来兄は明日、駅へ行く
「る」・進行中兄は今、手紙を書いている
「る」・習慣/きまり兄は毎朝、駅まで歩く/この町では冬に川が凍る

自分が書いた文の文末と意味を表に当てはめると、どの文がどの意味を持っているかを判定できます。同じ「た」でも「きのう」が付けば過去、「もう」が付けば完了になるので、接続している言葉も一緒に確認しましょう。

文末の言い換えでミスをする際の多くは、表にあるような元々その文が持っていた意味を壊してしまうパターンです。ここで意味を理解すれば、何を変えてよくて何を変えてはいけないのかがわかるはずです。

より詳細な「た」「る」の文末での使いどころは、次の章で紹介します。

「た」の文末の使いどころ

出来事を前に進める文や段落を締める文には、「る」より「た」の方がずっと多く使われます。ここでは「た」で終わる文章を「る」にするとどう意味が変わるのかについて例文で紹介します。

「た」で書く文例文「る」にすると
段落の締め友人はそれきり何も言わなかった段落が終わったと伝わりにくくなる
語り手の振り返り兄はその本を気に入っているようだった「ようだ」では今の様子になる
三人称の感情友人は悲しかった「悲しい」では不自然になる
感覚を書く場合誰かに呼ばれた気がした「気がする」では不自然になる

自分の書いた文章がこの表に当てはまるなら、無理に「る」にせずそのまま残しましょう。

「る」の文末の使いどころ

地の文での「る」には、目に映る様子、心の声、習性やきまり、出来事そのものの4種類があります。このうち出来事そのものを書く文だけが、「一般的な文の中での意味」の表から外れます。

表現するもの例文一般的な文での意味
目に映る様子街灯が風に揺れている進行中(そのまま読める)
心の声もう間に合わない/いや、走ろう今/未来(そのまま読める)
習性・きまり・語り手の説明この坂では、夕方になると風が強くなる同じ
出来事そのもの坂の下まで一気に駆け下りる未来ではなく場面の中の出来事

文末の偏りを防ぐ順序の型

ここまでで説明した通り、「た」や「る」はそれぞれに最適な状態を表す意味を持っているため、単純にリズムやノリだけで替えていいものではありません。では、最適な意味を保ったままで文末表現が重ならないようにするにはどうすればいいのでしょうか。

この記事では1つの解決策として、描写する順序の入れ替えを提案します。

「た」で終わることを推奨される文が連続で並ばないように、「た」と「る」が交互、もしくは2連続までになるような順番で描写してみましょう。

ここでは、文末表現が連続しない描写順の型を5つ紹介します。

心の声を重ねてから出来事で場面を動かす

まず紹介するのは、人が思ったことを2〜3文重ね、最後に「た」の出来事で場面を動かす型です。

描写の順:心の声(〜だろう)→ 心の声(〜ない)→ 心の声(〜だ)→ 出来事(た)

昼休みに友だちへ送ったメッセージにまだ既読が付かないのは、午後の授業が詰まっているからだろう。怒らせることを書いたつもりはないけれど、最後に付けた「なんてね」は余計だったかもしれない。冗談のつもりでも、文字だけだとどう伝わるかわからないものだ。送信を取り消そうかと画面に指をのばしかけたとき、手の中でスマホが短く震えた。

心の声は「〜だろう」「〜ない」「〜だ」と文末の形を変えやすいため、続けて書いても同じ文末が続きにくくなります。最後に「た」の出来事を置くと、考えていた時間が終わり、場面が動いたことがはっきり伝わります。

出来事のあとに心の声と目に映る様子を置く

こちらは、「た」の出来事のあとに、それを受けた心の声と、目に映る様子を続ける型です。

描写の順:出来事(た)→ 心の声(〜だろうか)→ 目に映る様子(〜ている)→ 出来事(た)

昼過ぎからずっと続いていた隣の部屋の物音が、夕方になってふっとやんだ。引っ越しの荷物をようやく運び終えたのだろうか。カーテンの隙間から下を覗くと、トラックが荷台の扉を開けたまま止まっている。しばらくして、うちのチャイムが鳴った。

出来事を受けて人物が考え、そのあと目に入ったものを書く順なので、読者は人物と同じ順で場面をたどれます。目に映る様子を「〜ている」で書くと、出来事の「た」との連続を避けられます。

説明から入り出来事のあとに習慣を添える

こちらは場面の説明から入り、「た」の出来事のあとに、その場でいつも起きていることを「〜ている」で添える型です。

描写の順:説明(だ)→ 出来事(た)→ 習慣(〜ている)→ 出来事(た)

バイト先の喫茶店は、波が引いた十五時過ぎがいちばん静かだ。洗い場のカップを片づけ終えたところで、先輩が「休憩、先にどうぞ」と声をかけてくれた。先輩はこの時間になるといつもカウンターの端で、次の日に使うおしぼりを黙々と巻いている。前に一度手伝ったときは、私の巻いたものだけ太さがばらばらで、結局先輩が巻き直してくれた。

説明の「だ」と習慣の「〜ている」は、どちらも「る」の側の文末です。その間に出来事の「た」を挟むと、自然と「た」と「る」が交互に並びます。

心の声の段落に「た」を1回だけ入れる

こちらは心の声が中心の段落で、心に浮かんだことや過去の体験だけを「た」で書く型です。

描写の順:心の声(る)→ 心の声(〜だ)→ 過去の体験(た)→ 心の声(〜だろう)→ 心の声(〜ない)

母の誕生日に何を渡せばいいのか、毎年この時期になるとわからなくなる。花は飾る場所に困ると言うし、ハンカチなら引き出しにもう何枚も入っているはずだ。去年のマグカップも喜んでくれたのは最初の数日だけで、気づけば食器棚の奥にしまわれたままだった。本人に欲しいものを聞けば早いのに、どうしてそれがこんなに照れくさいのだろう。いっそ一緒に買いに行こうと誘うほうが、まだ言い出しやすいかもしれない。

心の声の段落では、「た」は思い出した出来事の1文だけになります。そのため「た」が続くことはなく、思い出した場面だけが過去のこととして浮かび上がります。

出来事の間に推し量りと動作を挟む

こちらは「た」の出来事と出来事の間に、推し量りの文と「る」の動作を挟む型です。

描写の順:出来事(た)→ 推し量り(〜だろう)→ 動作(る)→ 出来事(た)

電車が動きだしてすぐ、向かいの席に座る女性の膝から文庫本が床へ滑り落ちた。さっきから小さく船をこいでいたので、本人はまだ気づいていないだろう。私は足もとまで滑ってきた本を拾い、「落としましたよ」と声をかける。はっと目を開けた女性は、本を受け取りながら何度も小さく頭を下げた。

動作の「る」は、その場で起きていることとして読めます。推し量りと動作を出来事の間に挟むと、「た」が2つ続く前に文末が変わります。

このような型を使用すると、自然と文末の連続を避けられるだけではなく、場面もスムーズに動かせるのでおすすめです。他にも型はあるので、自身の描きたいシーンに最適な型を見つけてみてはいかがでしょうか。

商業作品(短編)を分析した結果

ここではトピックとして、筆者が商業作品として出版されている短編小説の文末を分析し、「た」がどれだけ使われているのか、同じ文末表現が連続している箇所はあるのかを集計した結果を載せておきます。

「た」以外の文末が混ざる割合

商業作品の地の文では、3作のうち2作は、「た」で終わる文末が4〜5割でした。「た」以外では動詞の基本形(歩く、見るなど)のような言い切りの形が多く使われていました。

割合は以下の通りです。

文末の形短編A(431文)短編B(323文)短編C(601文)
「た」42.2%29.4%50.1%
動詞の基本形21.8%24.8%22.3%
「〜ている」5.3%6.8%5.3%
体言止め6.3%5.9%2.8%
だ・である・のだ6.3%8.7%6.2%
否定の「ない」4.9%2.5%3.8%
推量(だろう・らしい・ようだ など)4.6%1.5%2.7%
疑問・倒置・言いさし3.9%14.2%4.0%
形容詞の「い」1.4%3.7%0.8%
終助詞・その他3.3%2.5%2.0%
「た」以外の合計57.8%70.6%49.9%

また、同じ文末が3文以上続いた箇所は次の通りです。

項目短編A短編B短編C
「た」が3文以上続いた箇所16か所7か所39か所
最も長く続いた文数5文5文13文

母数は少ないものの、この結果からは、作品によって「た」の割合や連続の多さに大きな違いがある、ということが読み取れます。

何も考えずに気づいたら行動の列挙になっていたなど、単調な読み心地になってしまう箇所は修正の余地があるかもしれません。ただ、プロでもここまで違いがあるので、そこまで神経質になることはないかもしれません。

まとめ|文末は描写の順序を工夫して連続を防ごう

作品を書き上げた後、推敲する際に「うわ、また『た』が連続してるよ……」となる方は、あとから「た」と「る」の入れ替えを検討するのではなく、本記事で紹介した型を使って最初から連続を防ぐように文章を書いてみましょう。

あくまでここで紹介した方法は手法の1つであり、正解はもちろんありません。それでもこの記事が、執筆で悩む方の一助になれば幸いです。

参考文献